目次へ戻る

ステレオ再生の音像定位

ステレオ再生の音像定位について 投稿者:SR 投稿日: 2006年 1月30日(月)14時55分57秒

オーディオに関する掲示板等で、ステレオ再生の音像定位についてとても写実的な表現をしている例が有ります。例えば、新しく購入したスピーカーで聞くと、ピアノはやや右寄りで胸元辺りの高さに鳴り響き、バイオリンは中央上部で鳴り響く…や、波が床を這い、鳥はスピーカーの外側に大きくはみ出し、上方を飛ぶ…など。(この書き込みを、書かれた方、申し訳有りません、悪意は有りません。理論的な興味から引用しています。)

感じ方の問題なので、個人差が大きいと思いますが、特別な処理を施していない通常のステレオ(2CH)再生において、理論的に考えて、スピーカーのみの差で、それまで感じる事の出来なかった高さ方向の音像定位が解る様に成るのでしょうか?それとも、個人の経験にもとずいて脳が錯覚しているのでしょうか?(もしかすると、投稿者は自分の気持ちの表現としてのイメージを書いているのかも知れませんが)

私自身の経験では、高さ方向や奥行き方向の音像定位については、スピーカーの配置や視聴位置を変えた場合に、定位位置が変わりますが、音楽を再生している途中で高さ方向や奥行き方向の定位位置が、変わるようには感じません。(演奏会などには行きませんので、音に関する経験が不足して居るのかとも思います。)

Re ステレオ再生の音像定位について 投稿者:志賀 投稿日: 1月31日(火)09時52分19秒   引用
SR さん

これについてはHPにも書いていますが、スピーカーからの物理情報を基に、脳内で音像を形成するといったプロセスだと思うので、どこまでがスピーカーの性能から来る物理的な原因か、脳内で作り上げられた物か、ということは、個人差やその人の経験にもよるので議論をしても結論が出るような問題ではなさそうです。

実験的にはブラインドテストということになりますが、これもスピーカーの音質については比較的聴き分けが容易と思いますが、音質の違いを、定位の違いと感じる人もあるだろうしいわゆるABXテストでは難しそうです。例えば、楽器の配置がわかっているソースを聴かせ、どれほど正確に言い当てられるかというテストをすれば本当に正しく音像が再現できているかどうか、スピーカーによって正答率が変化するかどうかを調べれば面白いでしょうが、まあそんなことをする人はないでしょうし。

それはそれとして、音像定位について個人的感想として、まず前後感ですが、あるデモンストレーションCDで遠ざかっていく人の音声をはっきり聴き分けることが出来ました。これは直接音の減衰と、反射音の相対的な増加によって判断しているようです。トンネルの中で遠ざかっていく人の声を一定感度で録音すれば素人でも出来そうです。高さについても、例えば、反射の強いコンクリートの床面から音源の位置を上げていくとある程度判別可能かもしれません。

このように、音像定位についてはかなり研究が進んでいるようで、いわゆるバーチャルリアリティーの技術として映画の音声などに利用されているんではないでしょうか? 最近流行の前方スピーカーのみで 5.1chのように後方からの音を感じさせる技術もその1つだと思います。

実際の演奏会での定位感ですが、普通は視覚情報から楽器の位置がわかるので、音だけで判断しているのではなさそうです。たまに目をつぶって、ある楽器の位置を特定しようとしてもとてもピンポイントで特定することは出来ません。これも個人差があるだろうし訓練により精度は上がるとは思いますが

Re:ステレオ再生の音像定位について 投稿者:NS 投稿日: 2月 1日(水)10時05分34秒

SRさんへ

音像定位に関して少しの知見は持っていますので参考文献と説明を少し?書きます。

さて、みなさんが定位について録音方式を考慮に入れていないので常々片手落ちと思っています。ステレオ録音の基本であるステレオワンポイントのセッティング方法を知ることが2CHステレオの音像定位の理解につながると思います。セッティング方法は各種あります。それぞれ特徴があり、人間の聴感特性を考慮に入れています。音像定位について上下方向の文献はほとんど見かけなく、水平方向の文献はたくさんあります。基礎的な本としては、
田中茂良著:マイクロホン・スピーカー談義 兼六館出版 H7.3刊
  ISBN4-87462-035-3 C3055 P3800E 税込み価格3800円
に載っています。この本にΔS(左右耳音量差)-Δφ(左右耳位相差)のグラフがあります。試験者を中心にさまざまな角度からスピーカーの音を発して左右耳音量差と左右耳位相差を測定した結果です。
X軸はΔS、Y軸はΔφでプロットしてあり、原点は正面を意味します。曲線は逆S字になります。人間の定位感覚は個人差がありますが、この線に沿っていれば明確な定位が得られます。人間の定位感覚が影響が大きい順に音量差、位相差、音色差(頭部伝達関数)があります。ステレオワンポイントのセッティングは以下のようにあります。
http://www.schoeps.de/E-2004/overview-stereo-techs.html
このなかでXY方式、ORTF方式、NOS方式、AB方式とがあります。XY方式はマイクカプセルの距離は0にするので位相差情報はありません。しかし単一指向性マイクを用いて角度を付けます。角度を付ける事によってマイクカプセルの指向特性により音量差が生じます。音量差のみでステレオ感を得ています。

次にAB方式は無指向性マイクを用います。40〜60cmまたは1m近くマイク同士を離します。これは両マイクに音源からの距離差を生じさせ、位相差を生じさせるためです。ただし無指向性マイクを使用しているので音量差情報はあまりありません。位相差のみでステレオ感を得ています。

ORTF方式やNOS方式はXYとABの中間の方式でありますが、単一指向性マイクを用いている、マイクの距離を離している関係上、音量差情報と位相差情報の両方を含みます。NOS方式は、マイクロホン・スピーカー談義に書いておりますようにΔS-Δφのグラフ曲線上にほぼ載ります。実際に見た通りの角度で定位します。NOS方式でマイクロホンの距離を推奨値の30cmより大きくした場合、位相差情報が過多になり、ΔS-Δφの曲線からずれてしまい、定位がぼやけるようになります。マルチマイクでのパンポット操作はΔS-Δφ曲線からずれはありますが、そんなにひどくはありません。

ORTFはフランス国立放送局が開発した方式であり、マイクカプセル距離を17cmにしていますが、左右の鼓膜距離と再生時のスピーカーセッティングも考慮に入れた方法です。ドイツ語ですがわたしは全然歯が立たないですけど、
http://www.schoeps.de/D-2004/PDFs/Mikrofonbuch_komplett.pdf
の20ページあたりにでてきます。

また、Jecklin Disk方式は左右の音色差を重視した方式であり、円盤の大きさ、材質、マイクカプセルと円盤の距離、角度が厳密に推奨されています。それぞれの方式には特徴があり、それぞれの現場で各方式が使われています。さて、ここまで俯瞰していただくと各種ステレオワンポイント方式では水平方向の情報は考慮されていますが、上下方向は考慮されていないとお気づきでしょう。これでは上下方向の情報はどこでとらえているのかわかりません。では、ダミーヘッド録音ならどうかと言われましょうが、たしかに人口耳介や首があるので上下方向の情報はあると思います。しかしながら、生首みたいな人間の上半身のようなマイクなどホールの吊り設備に吊り下げられませんし、ヘッドホンでは良いがスピーカーで聞くとモノラルみたいだという事なのでほとんどの録音では用いられていません。一部のマニアのために発売されているぐらいでしょうか。
<鳥はスピーカーの外側に大きくはみ出し>
という現象は、
http://homepage2.nifty.com/hotei/room/chpt01/chpt01.htm
の「部屋の形状(1) 鏡像法」にあるように、スピーカーの外側から聞こえるのは壁からの虚像からあたかも鳴っている錯覚のために生じていると思います。また、
<上方を飛ぶ>…など。     の上方定位は
上のホームページ「部屋の形状(2)壁が3つ以上の場合」に述べられているように天井の反射(スピーカー虚像)も同じような事がいえるので上方向に鳴っていると錯覚するのではないかと思います。だいたい床には吸音するカーペットを敷きますから、天井の反射音が大きくなりますのでこれが上方定位の原因ではないかと思います。長文ですみませんでした。

inserted by FC2 system