目次へ戻る

コンプレッションとリミッター

Dynamic Range Compression 投稿者:TY 投稿日: 2007年2月 7日(水)17時57分20秒

今まで、と言っても数十年間、録音側についてはあまり考えたことがないのですが、最近ラジオ技術のバックナンバーの記事を読んで、録音現場でのプロのマイクロフォンの使い方がいくらか分かったような気になってきましたが、コンプレッションについては、googleでサーチしてみましたが、あまりはっきりと分かりませんでした。この掲示板でもこの話題は過去になかったように理解していますが、どなたか基本的なことをご存知でしたら以下の質問にお答えください。質問自体が間違っているようでしたら、訂正してください。

1.マスター(テープ)にデジタルで記録する段階では何の加工もしないのか。
2.マスターを何らかの編集した後、CDに落とす段階でコンプレッションを行うのか。
3.コンプレッションはレベルの高い部分をリミターで落とすのか。
4.あるいはコンプレッションはレベルの低い部分を上げるのか。
5. コンプレッションはどのような技術を使っているのか。

勿論CDを制作する過程の話です。文脈から分かると思いますが、メモリーを節約するための、コンプレッションの話ではありません。

Re Dynamic Range Compression 投稿者:SK 投稿日: 2月 8日(木)08時49分44秒

20年以上、米国でレコーディングの仕事をしています。Dynamic Range Compression について自分にわかる範囲でお答えします。

<1.マスター(テープ)にデジタルで記録する段階では何の加工もしないのか。>

ミキサー/録音エンジニアに任される事が多いです。
音楽によっては完成時にはっきり加工された感が必要な場合があり、その場合録音時に積極的に加工します。

<2.マスターを何らかの編集した後、CDに落とす段階でコンプレッションを行うのか。>

マスタリングの段階でEQとコンプを使用することは一般的です。

<3.コンプレッションはレベルの高い部分をリミターで落とすのか。
4.あるいはコンプレッションはレベルの低い部分を上げるのか。
5. コンプレッションはどのような技術を使っているのか。>


3,4,5 まとめてお答えします。
コンプの使い方は2通りあります。
本来の使い方は、唄や生楽器のようにダイナミックレンジが音源のピークを押さえて録音媒体のヘッドルームを有効に使う、というものです。アナログ・テープ時代はS/N比をかせぐために、また打楽器などのテープ・コンプレッションを使うために重要なステップでしたが、現在は以前ほどではありません。

唄のように主役の音量のばらつきが大きく聞こえにくい部分が出てくる場合もコンプで補正します、このようなコンプ本来の使い方では、コンプ感が少ない方がベターです。

もう一つは、コンプを深くかけてダイナミックレンジの不自然な変化を積極的に利用する使い方です。中期ビートルズの音作りが起源ですが、現在のポピュラー音楽では広範囲に使われます。

ちなみに、放送業界では電波にのせるダイナミックレンジの上限がはっきり決まっているので強力なリミッターを使います。

DATのプレエンファシス 投稿者:MS 投稿日: 2月 8日(木)09時52分48秒

大昔にLPからソニーのDATデンスケに取っておいた音源を、別のDATでUSBインタフェースからデジタルで取り込んだものを再生したところやたら高音が強調されておりました。聴感上はRIAAのような低域〜高域が細工されていると言うよりは、1kHz以上が10〜20dBほどダラ上がりになっています。

DATからデジタルでPC/iPodに取り込んだ場合、DATのプレエンファシスやSBM(スーパー・ビット・マッピング)はどうなっているのでしょうか?

Re: Dynamic Range Compression 投稿者:HD 投稿日: 2月 8日(木)11時05分31秒
SK さん:

< ちなみに、放送業界では電波にのせるダイナミックレンジの上限がはっきり決まっているので強力なリミッターを使います。>

放送録音音源のCDが多くリリースされていますが、リミッターを使うのは放送時か、録音音源に既に使われているのかどちらでしょうか? 録音された時期によって違うかも知れませんが。

NHKでは同じ音楽プログラムを放送日時をかえてBS(Bモードの音声は48KHz/16bit PCM)、通常のアナログTV放送、音声だけFM放送したりしています。

リミター等 投稿者:TY 投稿日: 2月 8日(木)13時33分29秒

私の「マスター」と言う言葉の理解が間違っていたみたいです。それから確認をお願いします。マスターとはCDをカットするための元になる媒体でこのマスターからCDを作るときは何も加工しない。このような理解でよろしいでしょうか。当然マスターを作る、マスターリングをするときには、コンプレッサー、EQなど何でも必要な加工はするということだと思います。もしよろしかったら次の質問にもお答えください。

1.普通のCDでは何デシベルのダイナミックレンジを取っているのでしょうか。勿論クラシックは他のものと違って大きく取っていると思いますが。

2.コンプレッサーに関しての質問ですが。アナログ回路のいわゆる簡単なピークをカットするようなリミターは何年頃まで使われていたのでしょうか。

3.現在のコンプレッサーはどのようにデジタル技術を使っているのでしょうか。デジタル化したあと、ディレイさせてピーク時のレベルをそのピークの前から低くしてやる、などと言う方法を使っているのでしょうか。

Re: リミター等 投稿者:HD 投稿日: 2月 8日(木)19時40分20秒
TY さん:

< 1.普通のCDでは何デシベルのダイナミックレンジを取っているのでしょうか。勿論クラシックは他のものと違って大きく取っていると思いますが。>

CDのダイナミックレンジは96dBと言われています。音楽のジャンルによってどの位とっているかが違うのは仰せの通りですが、CDが世に出た頃と最近は変ってきているそうです。

http://www.cdmasteringservices.com/dynamicrange.htm

http://www.cdmasteringservices.com/dynamicdeath.htm

クラシックではこういう事はあまり無いとの感触ですが、1枚のCD内のピークを0〜-3dB位になるよう作られているらしい(なるべくフルビット使う為)ので、独奏曲、室内楽と編成の大きなオーケストラ曲では平均レベルがかなり違いますので、オーケストラを聴くボリューム位置では独奏曲、室内楽は音量が大きすぎになりますね。

Re2 Dynamic Range Compression 投稿者:SK 投稿日: 2月 9日(金)03時22分5秒

<放送録音音源のCDが多くリリースされていますが、リミッターを使うのは放送時か、録音音源に既に使われているのかどちらでしょうか?>

放送ではオン・エア時の出力にリミッターをかけているはずで、ソース自体は通常に録音されていると思います。もっとも統一規格があるわけでなく、放送局によって内規が決まっているでしょうし、録音された国が違えばなおさら色々なケース (テープ速度、録音レベル、マイクセッティング等の違い) があると思います。

<マスターからCDを作るときは何も加工しない。このような理解でよろしいでしょうか。>

私の仕事はミックス終了までです。マスタリングには通常立ち会い、意見を述べることはあります。そうして出来たマスターテープをメーカーに納品します。その後、建前では何も手を加えないはずですがCD工場によって音が違うという意見もありレベル調整などしているかも知れません。

1. CDのダイナミック・レンジは理論値96dBですよね。制作現場でその数字はあまり気にしていません。注意を払うのは、アナログ時代はVUメーターとマスターテープの録音基準レベルの調整、現在ではピークメーターの読みです。

2. アナログ機材のリミッターとコンプは今でも広く使われています。特に1950〜60年代に製造された真空管製の機材はプレミア付き価格で取引されています。物理特性は現代の製品より劣りますが、独特の歪みと動作のいい加減さ (いい意味で) を音の暖かさや太さに感じるためです。

3. デジタル時代の初期にはハードウェアとしてのデジタル・コンプが少数存在しましたが、現在のデジタル・コンプはソフトウェアです。PC上で走るプロトゥールズ等のハードディスク・レコーダーのプラグインとして使用します。インターフェースはアナログ時代の機材をモデルにしたものが多く、画面上のノブをマウスで操作するような違和感を感じさせないものがほとんどです。マスタリング用では真空管ADコンバーターを使ったデジタル・コンプが存在しますが私は使った経験がありません。

リミッターとコンプレッション 投稿者:志賀 投稿日: 2月 9日(金)09時21分41秒
の話が話題になっていますね。私も全くの素人なのですが、整理をかねて質問させて下さい。

リミッターとコンプレッションはどのように使い分けているんでしょうか?

言葉の意味からすると、前者は高レベルの信号のみをカットする。後者は全体的にダイナミックレンジを小さくするといった感じだと思いますが、いずれの場合も技術的には何らかの非直線性増幅(またはレベル調整)を行うんだと思うんですがこの場合、

1. 各瞬間で飽和傾向の非直線増幅を行う。この場合は当然高調波歪みを伴うことになりますね。

2. 一定期間のレベルを予見して予め徐々にレベルを変化させる。
ディジタルの場合は、コンピュータで処理すれば比較的容易だと思いますが、この場合どの程度の時間間隔で予見するんでしょうか?


アナログ時代はどうだったんでしょうか? エンジニアの勘?

Re3 Dynamic Range Compression 投稿者:SK 投稿日: 2月10日(土)02時18分44秒

<リミッターとコンプレッションはどのように使い分けているんでしょうか?>

リミッターはコンプのパラメーターを極端にした状態と考えられます(圧縮比 ∞、アタック/リリースタイム最小)。放送のようにレベルを一定枠に押さえることが重要なら最初からリミッター、録音中ならまずコンプから始めます。

<1. 各瞬間で飽和傾向の非直線増幅を行う。この場合は当然高調波歪みを伴うことになりますね。>

波形を変えるので、歪みは生じますね。

<2. 一定期間のレベルを予見して予め徐々にレベルを変化させる。ディジタルの場合は、コンピュータで処理すれば比較的容易だと思いますが、この場合どの程度の時間間隔で予見するんでしょうか? アナログ時代はどうだったんでしょうか? エンジニアの勘?>

アナログ・コンプの動作は入力信号のエンべロープを検出し増幅回路に帰還するというものです。エンベロープ検出は整流回路やフォトカプラーが使われ、反応速度や追従ぶりは様々です。それが回路設計と相まって機材特有の個性になり、唄向きのコンプ、打楽器向きのコンプ、特殊効果向きのコンプなどを耳で判断していました。

現在、プラグインで使うコンプは色々な機能を備えて競争しています。何 msec 先までレベルを予見するか設定できる物、エンベロープ検出の方式を整流型かオプト型か選択してシミュレートできる物、往年の名機のパネルをそっくりに表示して in/out の伝達関数を再現したと謳う物、帯域分割して個別に細かく圧縮の設定ができる物、など色々あります。設定を同じにしても聴感上は違う結果になるので、まず聴いてから用途にあったコンプを選びます。そのあたりは相変わらず、ですね。

Re Re3 Dynamic Range Compression 投稿者:志賀 投稿日: 2月10日(土)09時12分59秒
SK さん:

だいたいの様子は分かりました。

特にアナログの場合どのように処理されているのか初めて知りました。当然のことでしょうが予見時間はそれほど長くないんですね。


Re: Dynamic Range Compression 投稿者:HD 投稿日: 2月10日(土)11時26分39秒   引用
志賀 さん、SK さん:

<<1. 各瞬間で飽和傾向の非直線増幅を行う。この場合は当然高調波歪みを伴うことになりますね。>>

< 波形を変えるので、歪みは生じますね。>

リミッターやコンプレッサーにはいろいろな方式があるので、一概には言えないと思うのですが、瞬間、瞬間毎にいわばボリュームコントロールを変化させているのと同様の操作を行なっているのであれば、その瞬間毎の振幅は変りますが、クリップさせない限りある時間帯で波形は変っても歪は生じないとは考えられないでしょうか?

Re2: Dynamic Range Compression 投稿者:志賀 投稿日: 2月10日(土)13時04分50秒
HD さん:

<リミッターやコンプレッサーにはいろいろな方式があるので、一概には言えないと思うのですが、瞬間、瞬間毎にいわばボリュームコントロールを変化させているのと同様の操作を行なっているのであれば、その瞬間毎の振幅は変りますが、クリップさせない限りある時間帯で波形は変っても歪は生じないとは考えられないでしょうか?>

HDさんがどんな圧縮法を念頭において言っておられるか分からないのですが、あくまで非直線増幅を行うのであればそれに伴う非線形歪(高調波および相互変調歪)が生じるはずです。

http://www.ne.jp/asahi/shiga/home/MyRoom/distortion.htm

に示した、図1-b 反対称非直線性の赤線で示したような非直線増幅を行い振幅の圧縮を行うと言うことです。「瞬間、瞬間毎にいわばボリュームコントロールを変化させている」というイメージとはちょっと違います。あえてそのイメージで理解しようとしても結局飽和型の非直線増幅になると思うんですが? そうでないと圧縮にならないと思いますが?

これに対し、一定時間先の振幅を予見し、それがクリップしないように予め増幅率を「徐々」に下げておくとほとんど歪みは生じずクリッピングが避けられるわけです。ただし、変化速度が速いとその変化曲線に対応するフーリエ成分が発生し、AM変調と同じことになるわけです。

SKさんの言われるアナログ的なコンプレッションは振幅変化(波形ではない)の微分で少し後の振幅を予見し予め増幅率を落とすという方法だと思います。これでも予見時間が短ければ可聴周波数帯でそれ相応の歪みが発生すると考えられます。


Re: Re2: Dynamic Range Compression 投稿者:HD 投稿日: 2月10日(土)20時23分44秒
志賀 さん:

録音のことは良く判ってないのですが、業務用マイクはかなり以前から120dB以上のダイナミックレンジを持っているようですから、88.2KHz/24bit以上のPCMでコンプレッションをかけずに録音・ミキシングを行なって、CD等のメディアに合うように落とす時にディジタル処理でやるのが良いのかも知れませんね。 レコード会社ごとにそれぞれ技術があるようです。

理想的な処理 投稿者:TY 投稿日: 2月11日(日)07時05分57秒

皆さん、回答そして興味深いコメント、有難うございました。CDによってはオーケストラのピーク時で歪を感じるものがあるので、色々質問させていただきました。

それにしても、

http://www.cdmasteringservices.com/dynamicdeath.htm
この話には驚きました。アマチュア無線の送信機についているコンプレッサーと同じですね、送信レベルを上げヘッドルームを最小にするため装備されています。出力波形もこれと同じようになります。

http://www.cdmasteringservices.com/dynamicrange.htm
この話の中に出てくる、グラミーアワードの選考の話には大笑いです。

どうやら現在でもアナログ時代とあまり変わらない、処理が行われているようですね。デジタル技術がこれほど普及し、録音媒体も安くなり、CPUパワーも安くなっている現在、どうして次のようなことが出来ないのでしょうか。

1.録音時はなにも加工しないで、フルダイナミックレンジで記録する。

2.1の録音をスキャンしてダイナミックレンジを調べる。

3.2の結果を使って正に人がラウドネスコントロールを操作するように音のレベルを調節する。この場合のダイナミックレンジは普通家庭で聞くに都合のよいレベルとする(-18dB?)。

これはクラシックCDの話です。ポピュラーCDの場合はコンプレッサーによる歪を好んで聞いている人が居るようなので、このようなことをする必要がないでしょう。勿論、これらはすべてデジタルフォーマット上でソフトウエアで行います。

簡単な例を上げると、ラベルのボレロを上のソフトウエアで処理すると、最初はゲインを上げて始め、徐々にゲインを下げて行くことになります。これをゆっくりと行うので歪は発生しません。

あるいはこんな装置はもう既に開発され使われているのかも知れません。もし使われていないとしたら、コストが高くなりすぎ、誰もやろうとしないのかもしれません。今使われているコンプレッサーやリミターならその場でマスターリングできますし、後から何時間、あるいは何日間かかるか分からない処理をしなくていいからです。

Compression 投稿者:TS 投稿日: 2月11日(日)19時18分1秒

コンプレッションはFM局の放送音楽にも目いっぱい使われています。目的はサービスエリアの拡大です。コンプによって信号の平均レベルを上げると、C/Nが悪化してもS/Nが稼げるためサービスエリア拡大に繋がるとのこと。コンプを使う理由はただそれだけと某放送局はおっしゃっていました。一方でこのコンプ処理による独特な音が、各局の個性になっているとも言われました。

Compression動作 投稿者:TS 投稿日: 2月11日(日)19時53分38秒

再生装置上でのコンプレッサーの動作方式はアナログもデジタルもアルゴリズムは変わりません。精度や自由度が違うだけだと思います。またこの機能には根本的に歪と残留ノイズ特性の悪化が必ず伴います。コンプレッサーの動作を簡単に言うと、まず信号に一律にゲインを与えます。これで小信号のレベルを持ち上げます。そしてMSBに合わせて、入出力特性の一定の入力レベルから徐々にシグナルレベルを抑える非直線動作にかわります。そしてMSBは一致させるわけです。入出力特性図で1:1の傾きがリニア領域ですが、途中から線が折れて傾きが寝てくる特性です。この非直線領域で動作すると歪っぱなしなのですが、時定数を持たせて歪を抑えています。ですが時定数に近づく低域の信号周波数になってくると歪が増加します。また動作のアタック時定数は短く、リリース時定数は長いというのが一般的です。

そうだ思い出した。大昔、電話の音声品質を向上させる為の有名なコンプICがありました。571とかそんな品番だったと思いました。

inserted by FC2 system