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ネットワークのコイル

コア入りコイル 投稿者:JM 投稿日: 2006年9月17日(日)17時40分15秒

スピーカーのネットワーク回路に使うコイルですが、空芯のもの、銅箔巻きのものコア入りのものなど多様な種類があります。

これらのうち、コア入り(珪素鋼板、フェライトなど)のものは”磁気歪み”云々で音が悪いと言われているようですが、実際にどの程度影響がでるものでしょうか。

コア入りのものは巻き数を少なくでき、直流抵抗値で有利になる、あるいはコストが安いという側面もあるので悪くないかなと思うのですが。

磁石の講座を拝読して、コア入りだと何かしら影響はありそうだと思ったのですが、定量的にその程度はどんなものなのでしょうか。

Re コア入りコイル 投稿者:志賀 投稿日: 9月18日(月)06時13分51秒
JM さん

<スピーカーのネットワーク回路に使うコイルですが、空芯のもの、銅箔巻きのものコア入りのものなど多様な種類があります。>

そのようですが、ネットワークの構造や材料についてはほとんど公表されていないのでよく分かりません。

<これらのうち、コア入り(珪素鋼板、フェライトなど)のものは”磁気歪み”云々で音が悪いと言われているようですが、実際にどの程度>影響がでるものでしょうか。>

はじめに、”磁気歪み”という言葉ですが「磁歪」という専門語がありこれは文字通り磁化すると形状が歪むことですが、ここでは、磁性体をトランス等に使うとき、磁化曲線の非直線性から生じる波形の歪みのこととと取っておきます。

<コア入りのものは巻き数を少なくでき、直流抵抗値で有利になる、あるいはコストが安いという側面もあるので悪くないかなと思うのですが。>

おっしゃる通りです。特に3wayの低−中域フィルター用のコイルの場合、空心だとかなりの巻数が必要で、直流抵抗値をボイスコイルのそれに比べて十分小さくしようとすれば、かなり大型になり、コスト的に不利なので恐らく市販のシステムの大半がコア入りを使っていると想像しています。もう一つ、コアを入れるとコンパクトに出来るので、漏洩磁場も少しは小さくなる、あるいは固有振動を抑えるための防振対策が容易になるといったメリットもあるかも知れません。

<磁石の講座を拝読して、コア入りだと何かしら影響はありそうだと思ったのですが、定量的にその程度はどんなものなのでしょうか。>

確かに、定性的にはコアによる非直線歪み、バルクハウゼンノイズが入り込むので不利ですが、定量的にどの程度かと言われるとそもそも材料や構造についてのデータがないので想像でしかものがいえません。

たまたま私が使っているスピーカーシステムにはメーカーによる紹介記事があり、ネットワーク部の写真が載っています。それによると、肝心の芯の部分がテープに覆われており見えないのですが、大きさから考えて、コアが入っているものと思われます。材料については何も記述がありません。また、コイル間の磁気結合を避けるためコイル同士が互いに垂直になるように配置してあります。

以下の説明は少々専門的になるのですが、

コアの形状はコイルの内部のみを満たすシリンダー型のようで、これだとトランスの鉄心のように閉じた磁気回路を作らず、反磁場の影響で、磁気材料の透磁率が直接インダクタンスの増加につながる訳ではありません。


http://www.ne.jp/asahi/shiga/home/Lecture/ferromagnet.htm#demagsoft

を見てもらうと分かるのですが、この場合は右図のような磁化曲線になり、保磁力の小さいソフト材料を使えば、材料の非直線性の影響をほとんど受けず、また容易に磁化飽和せず、コアに起因する歪みは十分小さく出来ると思います。また、渦電流損失のことを考えるとソフトフェライトを使っていると想像します。

定量的といわれると、やはりデータ不足で難しいですが、スピーカーユニット自身の歪みに比べ無視出来る程度に抑えるのは容易で、適当な材料を選べば聴覚の検知限以下に抑えることも十分可能かと思います。ということで、低域用ネットワークコイルに磁芯を入れるのは合理的な選択だという気がします。

他のメーカーではどうなっているのか知りたいところです。


Re: コア入りコイル 投稿者:KB 投稿日: 9月18日(月)18時57分29秒

ネットワークを自作していろいろ試行錯誤いたしました。歪みの観点では測定しておりませんのでわかりませんが、志賀さんがお書きのとおり低域(ウーハー)と中域(スコーカーないしコンプレッションドライバー)を分ける
ところは、コア入りの方が音質上切れが出て好ましかったです。

これもメーカー製のコストを考えたものはフェライトコアのようなものが入った3〜5センチ角位の小さなもの、高級のTANGOのものは珪素鋼板を重ね合わしたものの15センチ角位の大きなものです。音のクリアーさは断然後者の方でありました

(無題) 投稿者:JM 投稿日: 9月18日(月)21時09分7秒
お答えありがとうございます。

書くのを忘れておりましたが、私はスピーカー工作を趣味でやっていましてその関係で、コイルの選択に悩んでおりまして質問いたしました。コア入りコイルの例としては

http://web.archive.org/web/20070219225933/http://www.mundorf.com/english/bauteile/frspule.htm
(ドイツのムンドルフ社)
http://web.archive.org/web/20060313204738/http://www.partsexpress.com/webpage.cfm?&DID=7&WebPage_ID=314
(アメリカの販売店Part Express)
http://dp00000116.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=701&csid=6
(コイズミ無線)

などがあるようです。このなかのいくつかは市販のスピーカーに使われているようです。

<コアの形状はコイルの内部のみを満たすシリンダー型のようで、これだとトランスの鉄心のように閉じた磁気回路を作らず、反磁場の影響で、磁気材料の透磁率が直接インダクタンスの増加につながる訳ではありません。>

コアというとトランスを連想してしまい、それと同じ理屈かと勘違いしておりました。大変参考になりました。

私が今自作スピーカーで使っているのは
http://dp00000116.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=701&csid=6
にあるフェライトコアのコイルです。これは巻き線が細い(AWG18か20だったと思います)ので直流抵抗値の低減には期待していませんが、値段が安いのでとりあえず使っています。

空芯コイルも使おうと思っていますが、どの程度違うものなのかなと思いまして質問した次第です。音を聴けば判るといえばそうかもしれませんが、ケーブル類で懲りたこともありまして、合理的な選択をしようと思っています。

Re: Re: コア入りコイル 投稿者:RS 投稿日: 9月18日(月)22時43分42秒   引用
KBさん

<これもメーカー製のコストを考えたものはフェライトコアのようなものが入った3〜5センチ角位の小さなもの、>

これは、多分、磁気回路が閉路になっていないものではないかと思います。その場合、コアによるインダクタン
ス増加効果は低いと推測されます。ということは、逆に巻き数を増やさなくはならず、直流抵抗的には不利にな
るでしょう。

<高級のTANGOのものは珪素鋼板を重ね合わしたもの15センチ角位の大きなものです。>

こちらは、推測ですが、磁気回路が閉路になっていて、コアのインダクタンス増加効果は高いので、巻き数は少なくて済むので、直流抵抗的には有利になります。ただし、鋼板の板厚を厚くすると渦電流損(鉄損)の影響が出る可能性はあります。

<音のクリアーさは断然後者の方でありました。>

後、問題はヒステリシス損ですが、ソフトフェライトと硅素鋼とでは、ヒステリシス損はどの程度違うのでしょ
う。これは、志賀さんが詳しいと思いますが。

Re: Re: コア入りコイル 投稿者:KB 投稿日: 9月18日(月)23時20分11秒
RSさん

ご解説ありがとうございます。

ヒノオーディオのこのページの下にあるものの昔のものです。今のものはタフピッチ銅で、昔のものはOFCであった記憶です。何でも珪素鋼板も、特に銅線は大量に発注しないと作ってくれない、中国との兼ね合いで値上がってしまったからだとか。

http://web.archive.org/web/20061009145617/http://www.hino-audio.co.jp/main_set.html

Re2 コア入りコイル 投稿者:志賀 投稿日: 9月19日(火)09時33分8秒
JBさん、KBAさん

さすがに皆さん情報通ですね。大いに参考になりました。

先のレスに書いたように、さらにRSさんの補足説明のように、ネットワーク用のコア入りコイルは大旨シリンダー状のコア、つまり開磁気回路を使っているようですね。

この場合、実効透磁率は材料の性質でなくほぼ形状だけで決まります。簡単にいえば細長いほど透磁率が大きくなります。つまり同じ巻数だと細長いコアを使うほど大きなインダクタンスが得られます。材料の性質が関係するのは飽和磁束密度で、細長いコアほど動作時の磁束密度が大きくなるのでより大きい飽和磁束密度(Bs)の材料を使う傾向があるようです。紹介されたコイズミ無線の製品はそのようなラインアップになっているようです。ただし、家庭用のスピーカシステムのネットワークとして使うときそれだけのBsが必要かどうかはなはだ疑問です。計算してみないと断定出来ませんが、Bsの小さいソフトフェライトでも十分な気がします。このような使い方の場合、非直線歪みやヒステリシスロスは保磁力が小さいほど有利で、パーメンジュール系材料(コロバーがそれ?)などは少し不利かも知れません。

トランス型のコア(閉磁気回路)の場合は材料の高透磁率がほぼそのままインダクタンスの増加に効くので、巻数従って直流抵抗を大きく減らすことが出来ます。その代わりヒステリシス曲線の非直線性が直に効いてくるのでどちらを取るかのトレードオフの関係になると思います。

最後に、フェライト系材料は音が悪いという噂があるようですが物理的には何の根拠もないと思います。

Re: Re2 コア入りコイル 投稿者:KB 投稿日: 9月24日(日)03時42分5秒
KBです

<トランス型のコア(閉磁気回路)の場合は材料の高透磁率がほぼそのままインダクタンスの増加に効くので、巻数従って直流抵抗を大きく減らすことが出来ます。その代わりヒステリシス曲線の非直線性が直に効いてくるのでどちらを取るかのトレードオフの関係になると思います。>

そのようですね。低域は歪みが耳に付きにくいから直流抵抗が少ない=ストレートな明晰な音調が好ましく感じたのでしょうか。

ところで、このあたりのコイルともなれば、相当な長さになりましょうから、タフピッチOFC等々の電材の直流抵抗が直可聴帯域に影響のあるものになりましょうか?

Re3 コア入りコイル 投稿者:志賀 投稿日: 9月24日(日)06時20分4秒
KB さん

<<トランス型のコア(閉磁気回路)の場合は材料の高透磁率がほぼそのままインダクタンスの増加に効くので、巻数従って直流抵抗を大きく減らすことが出来ます。その代わりヒステリシス曲線の非直線性が直に効いてくるのでどちらを取るかのトレードオフの関係になると思います。>>

<そのようですね。低域は歪みが耳に付きにくいから直流抵抗が少ない=ストレートな明晰な音調が好ましく感じたのでしょうか。>


低域といわれてもウーファーが受け持つ上限辺りだとどうでしょうか? ただし、ちょっと誤解を与えたかも知れませんが、前レスではあくまで事実を述べただけで聴感に影響を与えるかどうかは全く別問題で、私にはよく分かりません。

あまり事情を知らないのですが、ヒステリシス歪みを嫌って空心コイルに拘る自作派マニアの方も多いんではないでしょうか?


<ところで、このあたりのコイルともなれば、相当な長さになりましょうから、タフピッチOFC等々の電材の直流抵抗が直可聴帯域に影響のあるものになりましょうか?>

導線の純度の影響については

http://www.ne.jp/asahi/shiga/home/MyRoom/meisin.htm#highpurity

ここに書いてありますようにごくわずかで、タフピッチから6Nにしたところでその場所の温度が0.5℃ 下がったくらいの効果しかありません。あるいは1mのケーブルの端を5mm 短くした程度です。それにもかかわらず純度が高い線材を使うといい音がするということを信じ、そう感じる人(KOBAさんはそうでないようですが)が多くいるということは、私から見ると、心理効果が聴感にいかに大きな影響を与えるかを証明している典型的な現象と見なしています。


 市販のスピーカーシステムに使ってある周波数分割用のネットワークの部品の諸パラメターは公表されておらずそれこそ密室の中にあるが、色々調べてみると、3way 用でクロスオーバー周波数を数百Hz とすると低域-中域用の -12dB フィルターでは数mH のインダクタンスが必要である。これを直流抵抗値を0.5オーム以下に抑えて空心で作るとかなり大型になる(外形十数cm以上か)。従って、ほとんどの市販のスピーカーシステムではコア入りコイルが使われいる。この場合シリンダー状のコアが使われており、上のレスに書いた通り実効透磁率は数倍程度になる。つまり、巻数が空心の場合の数分の1で済むことになる。概算すると内径2cm、外径数cm、長さ数cm、外径1mm強の銅線を使うと巻数は300〜400ターンとなり直流抵抗値は 0.2〜0.3オームとなる。この値は物理特性重視のD社のかなり高級モデルを参考にしたもので聴感に対する影響も十分検討した上での設計と考えていいだろう。普及型ではもう少し高い抵抗値になっているかも知れない。

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