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アンプとケーブルの相関

以下のやりとりは、ブラインドテストの問題点の議論から派生し、私のHPでも取り上げているアンプ・スピーカー・ケーブルの相性

http://www.ne.jp/asahi/shiga/home/MyRoom/interaction.htm

に関係することです。まずこれに目を通してからお読み下さい。

正直申上げまして 投稿者:SS 投稿日: 2005年5月11日(水)12時37分6秒

民生オーディオ機器の評価にブラインドテストというのは現実的に無理が多いとおもいます。

信号チェーンに沿った機器間での相互作用による「加害/被害」関係の切り分けすら難しい状態で、系の一部だけ並列的に何かを切り替えてなにをききわけようとしているのかという原理的問題が一番大きいとおもいます。同相還流成分をさておいたとしても信号帯域制限をどこでどうすかで誰もが納得する合意が得られるとも思えません。

これがMPEG規格設定に当たって行われるデジタル信号処理の官能評価とは大きく異なるところです。

同相ノイズ/高周波などの影響 投稿者:DM  投稿日: 5月13日(金)01時18分28秒

はじめまして。ROMしておりましたが、SSさんの問題提起が十分消化されぬままスレッドが流れて立ち消えになる危機感を覚えたので投稿させていただきます。

この業界、何が標準的認識か明確でないのが困りものですが、同相ノイズや高周波による音質への影響は一部の間では問題視され、メカニズムが十分に解明されていないまでも次のような事例(による音質変化)との関連が仮説的に論じられています。

もっぱら同相ノイズに関連するのではないかと思われる事例
・商用電源の極性
・商用電源と機器との(例えばコモンモードフィルタによる)アイソレートの有無
・バランス伝送かアンバランス伝送か(ディジタルならさらにオプティカルリンクか)
・機器間信号ライントランスやコモンモードフィルタの有無(機器内ブロック間の接続においても同様;とりわけ電源がブロック独立の場合)
・GND線を持つシールド線(不平衡なら2芯)でシールドを一方の機器のGNDに接続する際、上流機器に接続するか下流機器に接続するか(非接続=フローティングという選択肢もありますが)
・複数機器をセレクタで切り替える際、HOTのみを切り替えるかGND接続までカットするか
・セレクタでHOTは非選択ながらもGNDが接続されたままの機器の電源がONかOFFか、またOFFであっても電源スイッチが片切りであるか両切りであるか
・信号ラインの接続された複数機器の電源を距離の離れたコンセントから取るか、1個の電源タップから集中的に取るか
・3P電源ケーブルのアース線を機器GNDに接続するか否か
・電源フィルタのYコン(電源ラインに並列に入れた2個のCの中点を接地するもの)を機器GNDに接続するか否か
・システム全体を大地アースするか否か、またアースの性能
・(特に業務用機器の場合)システム全体を金属製ラックに導電的に固定するか否か・・・等々

長くなるので高周波関係は今回省きますが(両者が重なり合う==高周波性の同相ノイズ==ケースも多いと思われます)、少なくとも私自身は、この種の試行錯誤をそれなりに行った結果、どれも音質に若干ないし大きな影響があるという心証を持っています。

SSさんが提起された「相互作用」もまた同じ問題であると私は理解しておりまして、いわゆるオーディオ機器の音質なるものは、どこまでが「固有音」でどこまでが相互作用の結果を聞いているだけなのか区別することは非常に困難であると考えていますが、こうした問題について皆様のご意見をお聞かせ願えれば幸いです。

ちょっと質問です 投稿者:志賀 投稿日: 5月13日(金)05時52分15秒

DHさん、SSさん

大変高度な議論のようで素人の私にはついて行けない部分があります。そこで、問題点をはっきりさせるため質問させて下さい。


(1) 「同相」ノイズとはどのように定義されるものでしょうか?

(2) この話題はアンプのブラインドテストの話から派生したものですが、この「同相ノイズ」あるいは「高周波ノイズ」がどういう形でブラインドテストに関わってくるとお考えなんでしょうか?

具体的に、この問題があるからブラインドテストはやっても意味がないという主張なんでしょうか?

それとも、有意差が出たとしても「同相ノイズ」のせいで機器固有の差ではない可能性があるという主張なんでしょうか?

あるいは?


機器間インターフェース 投稿者:SS 投稿日: 5月13日(金)12時20分58秒

についてちょっと補足を。複素インピーダンスをつかって精密に計算すべきところなのですが、おおざっぱな近似を以下に示します:

1)入力部
アンプの入力回路は差動にせよエミッタ帰還にせよエミッタが交流的に浮いていますが(FETや球ならそれぞれソースとカソード)

BE間容量 + E-GND間ストレー容量 + 駆動側のベース-GNDループのL成分

でへたするとコルピッツ発振機になって発振します。ベースに抵抗をいれたりしてこの現象を防ぎますが、最後の項はケーブルと駆動インピーダンスに依存します。

2)出力部
石アンプでは通常プリでもパワーでも(ラインレベルのソースも)エミッタフォロワになっていますが、上記と同じ

BE間容量 + E-GND間ストレー容量 + 駆動側のベース-GNDループのL成分

で「E-GND間ストレー容量」に負荷容量が加わります。通常負荷に直列にRやR//Lを入れたり、負荷に並列にC+Rを入れて不安定化を避ける工夫をします。負荷容量にはケーブル容量が加わります。

こうした帯域外不安定性の程度がどう音質に影響するかはさておき、ケーブルだけを代えて音が変ったとしても、「ケーブル-アンプ相互作用」の結果を「ケーブルの属性」に押し付けるのはいかがなものかという問題が残るとおもいます。

Re 機器間インターフェース 投稿者:志賀 投稿日: 5月13日(金)20時15分49秒
SS さん

同相=common mode ということですね。分かりました。


<こうした帯域外不安定性の程度がどう音質に影響するかはさておき、ケーブルだけを代えて音が変ったとしても、「ケーブル-アンプ相互作用」の結果を「ケーブルの属性」に押し>付けるのはいかがなものかという問題が残るとおもいます。>

音質変化とその原因については、例えば「天動説から地動説」のページに書いてありますように、何かを変えたとき、それ自身の特性の変化だけでなく、それに伴って変わる諸々の現象(攪乱要因)に思いこみが加わりなかなか複雑だと思います。そういう意味でこの部分はおっしゃる通りだとおもいます。

私自身は思いこみの影響がことのほか大きいと考える理由は、ブラインドテストの結果からではなく、例えばケーブルの純度で音が変わると言うことは物理的に見てあり得ないにもかかわらず、一部のマニアの間では変わるのが常識のように言われていることからです。ブラインドテスは傍証程度に受け取ってます。

ところで、帯域外不安定性について、実際に観測されているんでしょうか? 聴感に差が出るような現象が起こるとすると、それなりの測定器と、測定方法を工夫すれば観測可能だと愚考するのですが?

Re:機器間インターフェース 投稿者:SS 投稿日: 5月13日(金)20時31分40秒
志賀さん

<帯域外不安定性について、実際に観測されているんでしょうか?>

もう定常的に発振しちゃってるようなのは簡単に再現できます。音もなんだか変ですね。それこそ入力の抵抗をとってしまったり、出力保護ネットワークをとってしまったりすると大抵観測に掛かるような変化が出ます。歪み率カーブにも影響はでますね。

ケーブルについては、一大産業になっちゃってますね。私はEtherの10Base2のケーブルがまだ一杯あるのでそれですましちゃうようなタイプですけど。

Re Re:機器間インターフェース 投稿者:志賀 投稿日: 5月13日(金)21時37分26秒

SS さん

<もう定常的に発振しちゃってるようなのは簡単に再現できます。音もなんだか変ですね。それこそ入力の抵抗をとってしまったり、出力保護ネットワークをとってしまったりすると大抵観測に掛かるような変化が出ます。歪み率カーブにも影響はでますね。>

すみません。私が聞きたかったのは、現実に即して、一応プロがいろいろな対策を施したアンプを使って数メートルのケーブルを変えたくらいでその変化が観測されたような例があるかどうかだったのですが。

100m 単位でケーブルを引き回すPAシステムにスルーレートの高いオーディオアンプを使うと実際発振することがあるという報告をメールをいただいたことはあります


Re:ちょっと質問です 投稿者:DD 投稿日: 5月13日(金)22時21分0秒

志賀先生:
<どういう形でブラインドテストに関わってくるとお考えなんでしょうか?>

ブラインドテストの是非と直結するのは少々性急かと。私が示したかったのは、カタログスペックが類似したアンプの音質が異なって聞こえたり、ケーブルで音質が変わったりといった現象を心理学的にではなく物理-電気-音響的に説明する可能性(の端緒)であります。

その上でブラインドテストとの関連に言及すれば、テストのデザイン、とりわけいかなるパラメータをいかに統制するかという問題に大きな影響は出てくるだろうと思います。例えば昨夜投稿した記事にも含まれる項目を重視するならば、テストする機器を切り替える際のGNDアイソレートを徹底する、使用しない機器は電源を切る、信号送り出し機器との同相モード結合を避けるためにライントランスを入れるといった類の配慮は最小限必要になりましょう。また高周波関係まで考慮に含めれば、アンプ入力LPFのfcやインピーダンス整合(低周波ではなく高周波での話です、為念)まで統制する必要があるかもしれません。

何れにせよ、テストについて考えるよりもまず先に、「音質が変わるメカニズム」自体をめぐってもう少し様々な可能性を張り巡らしてみても良いのではないか、というのが私の投稿の主旨であります。

Re:ちょっと質問です 投稿者:志賀 投稿日: 5月13日(金)23時05分3秒

DH さん

<ブラインドテストの是非と直結するのは少々性急かと。
・・・・・・・・・・・・・・・・
何れにせよ、テストについて考えるよりもまず先に、「音質が変わるメカニズム」自体をめぐってもう少し様々な可能性を張り巡らしてみても良いのではないか、というのが私の投稿の主旨であります。>


それはその通りだと思います。ケーブルに関しては、私自身そうしているつもりなんですが? 他に何かあれば指摘して下さい。ただ、その場合、量的な解析または実験(測定)結果を示してほしいのです。アンプについてはあまり(ほとんど)論じていませんが、そのためブラインドテストについてはこっそりと紹介し、冒頭に

「本文で、『アンプ(ただし、中級程度以上の半導体アンプ)によって大した差がない』と述べたが、以下のブラインドテストの結果はこの主張と矛盾しない。ただし、真空管アンプでは差が見られるので、この結果だけでアンプによる差はないと主張するつもりはないことを断っておく」

と断ってあります。ただ、あまり物理や技術の知識のない方はブラインドテストの結果のみに注目しこの部分だけが一人歩きをしているきらいがありますね。といって、せっかくの情報なので削除する事もないと思うのですが? あまり信頼できない(と思われる)結果は削除しました。


アンプについてはぜひ詳しい人の意見が聞きたいと思っています。

対策 投稿者:SS 投稿日: 5月13日(金)23時09分52秒

志賀さん、SSです。

一応プロがいろいろな対策を施したアンププロがプロ相手にプロ用途で設計したようなものですと、この辺の影響がでないようにしつけるとおもいますし、できます。

民生品はとにかく売れないといけないので、「志向地別仕様」ということで評論家の好みにすり合わせたり、ケーブルの違いを「楽しめる」ようになっていても全然不思議はありません。

多分そのときそのときの標準的組み合わせを想定して、そのなかで営業的に決めた「トーンポリシー」にチューンするのだとおもいます。

一般に業務用途の製品を国内民生マーケットの評論家が評論すると、「切れ込みがたりない」とか「粒立ちが今ひとつ」とか「骨格ははっきりでるが大味」とかそういう評価になることが多いです。彼等の普段聞いているソースが流通過程で録音側でそういう機器をくぐってきているにも関わらずです。

まあそもそも「切れ込み」だの「粒立ち」だの「骨格」がどういうものなのか私の脳内範疇的にはさっぱりわからない、というか多分高級民生品ショールームのある種特殊なお約束的音と関係あるんだろうなくらいの認識で、耳も痛いのでそうそうに退散することにしていますが。もっとも言語表現から推測される傾向にあわせてチューンするということはその場で可能です。まず位相補正や入力の帯域制限を安全マージン内でかえたり、もっと怪しげなところではパスコンの入れ方を変えたり(電源インピーダンスf特のピークやディップが変る)という常套手段があります。

個人的にはそういうことをしない評論家受けはともかく地味で落ち着いたものを自宅では使用したいとおもっております。

Re 対策 投稿者:志賀 投稿日: 5月14日(土)06時04分20秒

SS さん

<民生品はとにかく売れないといけないので、「志向地別仕様」ということで評論家の好みにすり合わせたり、ケーブルの違いを「楽しめる」ようになっていても全然不思議はありません。

一般に業務用途の製品を国内民生マーケットの評論家が評論すると、「切れ込みがたりない」とか「粒立ちが今ひとつ」とか「骨格ははっきりでるが大味」とかそういう評価になることが多いです。彼等の普段聞いているソースが流通過程で録音側でそういう機器をくぐってきているにも関わらずです。>


SS さんはアンプの専門家のようで、そういうことが可能とおっしゃるならそうなのかもしれません。 願わくば、耳のよい評論家諸氏が本当に正しく聴きわけているのかどうか、こっそりブラインドでテストをして実証してほしいですね。何らかの客観的な証拠がないと納得するには至りません。あるいは、すでにそのようなデータがあるならぜひ教えて下さい。私の目にしたデータでは市場に出回っている半導体アンプで音質差を実証したという例は見たことがありませんので

Re:対策 投稿者:SS 投稿日: 5月14日(土)10時38分29秒

志賀さん、

環境条件設定次第では差が出ないように異なる形式のアンプを詰めることが可能でしょう。

一般製品のみの組み合わせ+切り替え装置だとこの「環境条件」のところに難ありでどれがどれかあてるという形式ではほとんどダメでしょうが、かえたかどうか切り替えて聞かせるタイプの試験ではあてちゃうんじゃないかとおもいます。

そのてのテストはどこのメーカでも製品グレードの差別化目的で社内でしっかりやっているとおもいます。

この間省略

Re 物理屋として「思うに」 投稿者:志賀 投稿日: 5月16日(月)06時21分34秒   引用

IAさん、DH さん 

ご両人ともアンプ自作者として、当然のことながらアンプの違いによる音質の差にこだわりをもっておられ、また豊富な知識を持っておられることは十分に伺え、大いに得るところはありました。

しかし、あくまで実験物理屋としての目から見ると、残念ながら、その議論に納得するにはいたりません。その理由は、

(1) 音質についてはあくまで主観による判断である。
(2) 技術的な問題については、変化する可能性についてはいろいろ論じておられますが具体的に定量的解析や観測データを示しておられるわけではない。

我々の世界では、何かに違いがあると主張する場合はあくまで定量的に解析しどの程度の違いかを検討し、それを実験(観測)により確認することにより初めて事実として認められます。(HPに書いてありますように感覚による評価はブラインドによるものでないと実験データとは見なせません)

もちろん、これをお二人に要求しているわけでなく、私が納得できない理由を挙げているだけです。つまり、思考体系が全く異なる世界に身を置いているということで、これ以上の議論はすれ違いになりそうなのでこの辺にしておきましょう。

フォロア回路が微妙な条件の変化で発振したりしなかったりすることは私なりに理解しているつもりです。私が知りたいのは、市場に出回っているアンプで、数メートルのケーブルを変えただけで、実際何らかの違いが生じていることを実証するようなデータです。もしそういうものであればぜひお願いします。


このテーマの投稿者はほとんどアンプ製作者が集う某掲示板の常連さんのようです。従って、アンプとケーブルの相性について具体的な解答を示してもらえるかと期待したのですが、結局、膨大な応答があったにもかかわらず、結論らしいものが出ず不毛な議論に終わってしまいました。ただ、アンプ製作のプロとおぼしきSSさんとのやりとりだけを見てもらうと問題点がはっきりすると思います。ここでの議論は冒頭に上げたページの最後の部分に反映してあります。

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