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楽器(ギター)ケーブルの周波数特性

 ギターなど音量の小さい楽器は楽器自身にピックアップをつけ、ケーブルを介してアンプに送る。このとき、楽器側で音量を調節できるよう比較的ハイインピーダンス(250kオーム程度)のボリュームをつけ出力するようです。したがって、アンプ側から見るとピックアップの出力インピーダンスが極端に大きく、スピーカーケーブルやインターコネクトケーブルと異なり、ケーブルの C成分による高音の減衰が可聴周波数帶に下りてくる可能性があります。本来単純な話なので、適当にはしょって収録しておきます。

楽器ケーブルの特性(原題 Re: ダブルブラインドテスト) 投稿者:BN 投稿日:2012年 9月28日(金)08時32分53秒

現在、ちょうど楽器用ケーブルに関して「音が変わる」「変わらない」と討議する機会があり強い関心がございます。ぜひコイル成分を加味された既述の数式を修正、再解説をしていただければと願っております。

Re:楽器ケーブルの特性 投稿者:志賀 投稿日:2012年10月 1日(月)13時40分8秒
BN さん

自分では楽器ケーブルを使ったことがないので返答は控えていましたが、他にレスがないので推定を交えて回答します。

楽器ケーブルの場合、受け手はアンプでしょうから、基本的にはいわゆるインターコネクトケーブルと同じで、電気的特性は


http://www.ne.jp/asahi/shiga/home/MyRoom/connectcable.htm

ここに書いた通りです。受け手の入力抵抗が大きい場合はコイル成分(自己インダクタンス)による減衰はきわめて小さく、問題になりません。要するに数メートルの長さでは聴いてわかるような差は出ないということです。

それより、注意点として、かなり乱暴な使い方をすることが予想されるので機械的に丈夫であることが必要でしょう。従って、機械強度が弱い超高純度銅などを使っているなどと宣伝しているケーブルなどは避けた方がいいでしょう。

具体的にはカナレやベルデンといったプロ用のPAケーブルを作っている定評のあるメーカーの製品を使うのがいいと思います。


Re: 楽器ケーブルの特性 投稿者:OM 投稿日:2012年10月12日(金)08時21分31秒

まず最初に、【インピーダンス・マッチング】、この言葉を捨てましょう。

途中略

本質、そして、議論に必要な事象は、「ピックアップがハイ・インピーダンス」って箇所です。

Re: 楽器ケーブルの特性 投稿者:OM 投稿日:2012年10月13日(土)09時14分31秒

次の問題は、「ピックアップがハイ・インピーダンス」なら、何が起こるのか?

http://www.learnabout-electronics.org/ac_theory/filters82.php

のFig. 8.2.4を見て下さい。

「Corner Frequency」の位置を境に、Gainが低下していきます。周波数が2倍(Octover)になるとGainが6db落ちるので、6db/Octと呼ばれます。このCorner Frequencyは、fc = 1/(2πCR)で表されます。

ここで、100pF/mのケーブル2m分(ないしは、70pF/mのケーブル3m分)の200pFとピックアップのインピーダンス(純抵抗と仮定します。)250kΩを入力します。すると、約3kHzがCorner Frequencyであることがわかります。

3kHz以上の周波数の音が減衰することになりますので、High落ちになってしまいます。スタジオだと2mの配線も可能だと思いますが、ライブですと10mが必要になることもザラです。この場合、1kHz以上が消えることになるので、音質への影響は多大です。できる限りギターに近い位置にアンプを入れて、インピーダンスを下げる必要があります。

ハイ・インピーダンス → 高域の伝送特性が悪くなる → 長距離を送ると高域が落ちる → 短距離でアンプを入れて、長距離はロー・インピーダンスに任せる

が、普通の考え方で、通常はDIをギターの近くに置きます。しかし、エレキギターの音作りとして、「イフェクターで音を変えるのが有りなら、ケーブルでのハイ落ち(ハイ落とし?)も有り」って考えもできます。同じ種類のケーブルを2m、5m、10mと用意して演奏してみて、気に入った長さを選べば良いかなと思います。

最後に、

>ぜひコイル成分を加味された既述の数式

本質は、1つ前に書いた「ハイ・インピーダンスだと高域の伝送特性が悪くなるので、ハイ落ちを起こす」なんですが、L成分が入った場合のことを少し触れておきます。

ピックアップにコイル成分が有る場合には、
http://sim.okawa-denshi.jp/RLCtool.php
の等価回路になります。

「クオリティファクタ」のラジオボックスをオンにして、
Q=0.707 Fc = 10k c = 0.0000000001
を入力して、「計算」ボタンを押してみて下さい。周波数特性が表示されますが、これは、RCの場合の6db/Octよりも急峻に落ちる12db/Octです。Fcを超えたら、少し周波数が高くなると、全く聞こえなくなってしまいます。

また、Q=2 Fc = 10k c = 0.0000000001
を入力すると、Fcの付近にピークを持つようになります。この値の場合には、「10kHzにピークが有って、それよりも上の周波数が全く通らない」配線となります。

ただ、こんな特性になるほどのL成分が存在することは考えにくく、可聴域はRCだけしか効いてない6db/Octで、MHz帯になってからL成分が効いてくると思います。抵抗などの値は変ですが、特性を見るだけなら、以下のパラメータでOKです。

Q=0.001 Fc = 10k c = 0.0000000001

を入力した曲線で、10E0(10kHz)辺りから6db/Octで落ちて10E6から12db/Octになっています。でも、12db/Octに変化するポイントで既に120dbダウンですので、「音」には全く関係ないです

Re: 楽器ケーブルの特性 投稿者:AV 投稿日:2012年10月21日(日)11時14分2秒 OMさん

10月13日の投稿で、ピックアップに繋げているケーブルとの解析で、ピックアップの出力インピーダンス(Rp=250kΩ)をLow−pass filterの式のRに代入するのは不適当ではないでしょうか? この出力インピーダンスはケーブルのキャパシタンスと並列に入るはずです。ケーブルは確かにLow−pass filterですが、この場合のRは導体抵抗です。また、ケーブルの考察をする場合には、数十kHz以上では導体抵抗Rc<<ωLと成るので、L成分も考察する必要があります。

ピックアップ回路〜ケーブル〜プリアンプの伝送系を考察する場合には、ケーブルは4端子回路網ですから、挿入伝送量(挿入損失)として考察すべきです。この考察ですと、ケーブルは2mでも、10mでも、ケーブルで失われるエネルギー(挿入損失)は大差有りません。

Re: 楽器ケーブルの特性 投稿者:OM 投稿日:2012年10月21日(日)15時00分42秒 AVさん

>この出力インピーダンスはケーブルのキャパシタンスと並列に入るはずです。申し訳ないのですが、等価回路を示して頂けないでしょうか?

通常、出力インピーダンスは、

http://www.ni.com/white-paper/4494/en

のFigure1のRsで定義されます。

ギターのピックアップは、電子回路の常識と異なる定義になっているのでしょうか

Re: 楽器ケーブルの特性 投稿者:AV 投稿日:2012年10月21日(日)23時46分7秒 OMさん

> ギターのピックアップは、電子回路の常識と異なる定義になっているのでしょうか?

引用文献のFig.1では、Vsの内部抵抗がRsですから、Transduserの出力側から見ると、出力側がケーブルだとしますと、Rs はケーブルのキャパシタンスと並列に入っています。

この解釈は以下のOMさんの指摘通り間違いです。

Re: ダブルブラインドテスト(楽器ケーブル) 投稿者:O町 投稿日:2012年11月17日(土)10時54分57秒
AVさん

該当するページに「ケーブルの等価回路(下の図1)」がありますが、これ自体は間違いではないので、そのまま用います。

図1は、「ケーブルの等価回路」の左にギターをつないで、右にアンプをつないだ等価回路です。Zg(gはギターの略)もZa(aはアンプ)も、キャパシタ成分やインダクタンス成分も加味したインピーダンスです。




 図1

ギターやアンプの特性をインピーダンスで表現するなら、ケーブルをCRLのままにしておく必要はないので、こちらもインピーダンスで表現すると、図2となります。

  


図2

ギターの起電力(vi)をこの回路で伝達した時のアンプの入力電圧(vo)を教科書通りに計算すると、図3の上段の式になります。



図3
軽く整理すると、下の段の式になります。今回の議論には、この式まで整理すれば十分です。ケーブルのR成分とL成分を足したZrは、必ずZaとの足し算かZgとの足し算の形になっています。

(Zg + Zr) ≒ Zg, (Za + Zr) ≒ Za

が成立すれば、以前の私の行った議論と等価になります。ケーブルの長さを10mとして、Zrは5m分の抵抗とインダクタンスで表現すれば良いことになります。シールド線の抵抗成分は100mΩ/m程度ですので、多めに見積もっても1Ωには届かないです。

インダクタンス成分は、0.5~1μH/mですので、せいぜい5μHで、20kHzでも0.63Ωです。これに対して、ギターの出力インピーダンスは250kΩ、周波数で変化しますが、それでも十分に高いと思われます。

アンプは、入力キャパシタを100pFと大きく見積もっても、まだ、20kHZで80kΩです。

ギターの出力インピーダンスやアンプの入力インピーダンスと比較して、Zrは十分に小さく、無視して良いことがわかります。

この時点で、以前の議論で問題ないことが証明できたと思います。

その後AVさんの投稿はありませんがAVさんは信号源の内部インピーダンスを何か誤解されているようです。内部インピーダンスはあくまで

http://www.ni.com/white-paper/4494/en

の Fig.1 のように電圧源に直列に入っているののです。

ギターケーブル 投稿者:志賀 投稿日:2012年11月24日(土)19時38分53秒
   
しばらくギターケーブルの話題が続いていますが、だいぶ様子が分ってきたのでコメントさせてもらいます。

まず、等価回路はOMさんの示された図2でいいと思います。また、この等価回路に対応する一般式も、図3の式でいいと思います。ここで特徴的なのは電源(ピックアップ)の出力インピーダンス(内部抵抗)Zg が極端に大きいことです。また、受け側はアンプでしょうから入力インピーダンス Za は50kΩくらいとしましょう。一方、ケーブルのインピーダンスは、抵抗を100mΩ/m、インダクタンスを1μH/m、線間容量を50pF/m と仮定すると、10mのケーブルでは R〜1Ω、ωL は20kHz で約1Ω、100kHzでも6Ω程度で、50kΩのわずか0.01%程度で、仮に内部抵抗の温度依存性が銅程度だと気温が0.1℃変化する変化にも及びません。そのため、ケーブルの直流抵抗やインダクタンスによるインピーダンスZrはZgやZaに比べて十分小さく無視できます。高音減衰をまねくのは出力に並列に入った線間容量によるインピーダンスZc=1/ωC です。容量Cはもちろんケーブルの長さに比例して増加します。

そこで、等価回路を簡単化すると図4のようになります。

図4

始めに、Zg(図4のR1) が十分大きいため電源部を定電流電源(負荷の変動に対して電流が変化しない)と考えると出力電圧は、CとZa の(図4のR2)並列結合したインピーダンスに比例します。したがってLPFのカットオフ周波数はZg(図4のR1) でなくZa(図4のR2 50kΩ) とC(500pF)で決まりまり、約6kHz となるはずです。ただし、実際は、Za もそこそこ大きいので定電流電源と見なすことはできないでしょう。逆に、出力側をオープンとすると(OMさんの最初の見積もり?)はこのパラメターだと1.3kHz 位になりますが、これは少し低すぎる見積もりだと思います。

いずれにせよ、このような高インピーダンス回路だと、ケーブルの構造と長さで結構可聴周波数帶でも大きな変化がありそうですね。

OMさん

ところでピックアップの出力インピーダンスが250kΩと言うことですが、ちょっと驚いています。どのような発電機能を使っているんでしょうか?


ピックアップの出力インピーダンス 投稿者:MJ 投稿日:2012年11月24日(土)20時56分2秒  
志賀さん、

ボリュームから直接出力されているからです。

Re: ピックアップの出力インピーダンス 投稿者:志賀 投稿日:2012年11月24日(土)22時09分4秒  
MJさん

そうなんですか。知りませんでした。

Re: ピックアップの出力インピーダンス 投稿者:OM 投稿日:2012年11月25日(日)10時52分35秒  
志賀さん、MJさん

> ボリュームから直接出力されているからです。見つけました。

http://hotplaza.soundhouse.co.jp/mi_maintenance/wiring/stratocaster.jpg
http://hotplaza.soundhouse.co.jp/mi_maintenance/wiring/telecaster.jpg
http://hotplaza.soundhouse.co.jp/mi_maintenance/wiring/lespaul.jpg

トグルスイッチの配線がわかりにくいので、補足の図です(他はわかり易い図が見つからなかったので、ストラトだけで勘弁して下さい。)。

http://www.guitarnuts.com/wiring/stockstrat.php

この図だと、一目瞭然ですね。補足の方の図で、トグルスイッチをBridge PU(PickUp)の位置にした場合:

R2,R3,C1は回路に入ってませんので、R1で音量だけを調整することが可能です。しかし、R1の位置でインピーダンスが変化するので、ケーブルに依る音質の変化も、R1の位置に依存します。

トグルスイッチをMiddle PUの位置にした場合:

R2C1で高音側をショートして、R1を通して出力しています。基本的には、R2を小さな値にすれば、高音が減ります。しかし、R1の抵抗値やら次のケーブルやら全部を総合しないと、本当の周波数特性が推定できません。

トグルスイッチをNeck PUの位置にした場合:

Middle PUの場合と、全く同じ議論が成り立ちます。R2をR3に読み替えて下さい。

Re: ギターケーブル 投稿者:EV 投稿日:2012年11月26日(月)12時20分52秒  
志賀さん

> ところでピックアップの出力インピーダンスが250kΩと言うことですが、ちょっと驚いています。どのような発電機能を使っているんでしょうか?

ウキペディアに図と一緒に説明(リンク URL はシングルコイルピックアップの説明)があります。”ハムバッキング”コイルピックアップの説明もあわせてお読みになるとよいでしょう。

1時期、1980年前後かな?、ボディ内に増幅回路を内蔵したギターが流行しましたが、最近はそのような機種が少なくなっている気がします。アンプ内臓だと出力インピーダンスも低くできるし、音量コントロールでの音色変化もなくせるのですが、「楽器」としては好ましくなかったのと、フットコントロールアンプが各種できてきたせいではないかと思います。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%82%A4%E3%83%AB

Re: ギターケーブル 投稿者:志賀 投稿日:2012年11月27日(火)22時29分34秒
EVさん,OMさん、皆さん

いろいろ情報有難うございます。いい勉強になりました。

本題の出力インピーダンスは最大250kΩで可変ということのようですね。


Re: ギターケーブル 投稿者:志賀 投稿日:2012年12月 4日(火)06時55分29秒
TTBさん

> それで、ギターケーブルと音の関係を総括すると、どのようなことになるのでしょうか? こういう出力形態であると、高音域における影響は結構大きい、ということなのですか???

私も知らなかったのですが、解析するとそうなりますね。

インピーダンス整合がとれていない場合、ケーブルというのは単純化するとローパスフィルター(LPF)といっていいので、電源のインピーダンスが極端に大きいと、そのカットオフ周波数が可聴帯域に下りてくる可能性があるということです。

ただし、全く同じ条件でケーブルだけを変えた場合、その差が聴き分けられるかどうかは別問題です。ケーブル間でその特性(特に線間容量)があまり変らなければ分らないかもしれません。その場合も長さを変えると(かなり長い場合)差が感じられてもおかしくないと思います。


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